外食産業は、古くから課題となっている人手不足と低い労働生産性を抱えていますが、近年のフードテックの進化によって解決策が提示されています。
外食産業の2022年近況
コロナウイルスの感染防止のための三密を避け外出規制が起こったことが市場の縮小をもたらしました。
2022年には規制が緩和されましたが、完全にコロナ前の状況には戻りませんでした。
2019年(コロナ禍以前)
30兆円の市場
2020年(コロナ禍)
25兆円市場規模まで縮小
2022年(ポストコロナ)
28兆円市場規模まで回復
2022年以降
???
こんな外食産業の今後の見通しをフードテックに関する本を元に纏めていきます。
※この本は、「スマートキッチンサミット」という「食×IT」をテーマにした国際的な最先端の情報を取り上げたイベントの主催者による著作です。
外食産業の今後の見通し
"人手不足"と"労働生産性"に関して、課題を整理してから、それぞれがどの様に効果的かを見ていきます。
外食産業の課題①:常態化した人手不足
外食産業は高い離職率(新卒の離職率は50%)の影響で、欠員率が全産業に比べて2倍以上高いデータがあります。
離職の3大原因は以下の通りです。
- 体力、精神がキツイ
- 給料が安い
- やりがいを感じられない
私もチェーンの飲食店で働いていましたが、同じ理由で辞めてしまいました。
キツイ
- 体力面:土日は12時間以上の立ち作業があります。1時間あたり100程度の商品を作成しなければなりません。少しでも遅れが出るとクレームが入り、忙しさは怒涛のようです。
- 精神面:人が居ない環境のため、休みが取れません。
安い
利益率は約20%ですが、値上げするとお客さんが去ってしまうので、商品単価が安いため給料は上がりません。
やりがいを感じられない
私の居たチェーン店ではベルトコンベヤに素材を流し込み続けるのみで、飲食店というより工場の要素を強く感じました。
こんな人手不足の課題を"ギグワーカー"と"ロボット"というテクノロジーが解決策を示していて、その流れは加速していくと考えられています。
外食産業の今後の見通し①:ギグワーカーの拡大
ギグワーカーの拡大で、シフト組みのハードルは下がり、デリバリーが容易になり、人手不足を解消していきます。
ギグワーカー:自分の好きな時間に好きな場所で働くことが出来る業務形態
コロナ禍で収入が減った人の副業手段としてギグワーカーは一気に拡大しました。
ギグワーカーの代表例
- UberEats、出前館の配達員
- タイミー、シェアフルなどでのホールやお皿洗いのスタッフ
ギグワーカーの出現による外食産業の変化
外食産業の変化①フードデリバリー専門店の出現
客席を設けないデリバリー専用のお店は、ホールスタッフを排除することで人手不足の問題を解消しています。
フードデリバリーの売り上げは多い場合、1店舗あたり約1,000万円に達しており、デリバリーだけで営業ができる存在になっています。
実際にデニーズやフレッシュネスバーガー等のチェーン店もデリバリー専門店を出店しています。
外食産業の変化②ゴーストレストランの出現
ゴーストレストランは、スタッフの稼働を引き伸ばし人手不足の問題解決に繋げています。
相席屋ではコロナ禍で暇になったスタッフを活用してSCALESというポキ丼のゴーストブランドを導入して、スタッフを遊ばせる時間を無くしています。(関連記事)
ココがポイント
店舗の利益を上げる為に人件費で調整するのでなく、お店の付加価値向上に取り組むことが離職率を低下させます。
毎月デリバリーで300万円売れている私が知る大阪の町中華は、安く汚いところですが、活気があり他では得られない楽しさがあるため、配達員として10年以上働く人が多いと言っていました。
外食産業の変化③一日限りの雇用の充実
短期バイトは、シフトが埋まらない場合に人手不足を解消するのに役立ちます。
また、お皿の洗いやホールの整理などの簡単な仕事はすぐに依頼でき、年末など忙しい時期に重宝されます。
さらに、優秀な人材がいればスカウトすることも可能であり、採用活動にも効果的です。
ギグワーカーの今後
ギグワーカーは拡大が予測されています。
2019年に発表されたマスターカードの調査によれば、2023年末までに年率17.4%で成長するとされています。
私は以下の理由から日本市場はもっと拡大すると考えています。
ギグワーカーの増加理由①:選択肢の拡大
世界380億ドル規模市場(参考ページ)のライドシェア(相乗りサービス。白タク。)が日本には未だ無い為、市場開放されればギグワーカーは増えるでしょう。
ライドシェアは体験者が増加して世論が大きくなれば、規制緩和が進み拡大は時間の問題だと考えています。
ライドシェアの体験例
- 各地での無料実証実験(例:2020年「らくらく送迎」)
- 近似サービスの登場(例:チョイソコという予約相乗りサービス)
ギグワーカーの増加理由②フードデリバリーがより成長する
フードデリバリー市場が成長すればより稼げる様になり、ギグワーカーも増えて来る事でしょう。
フードデリバリーが成長する理由は以下の2点です。
フードデリバリーの成長理由ⅰ:日用品の拡大
Uber eatsや出前館は、小売り業(コンビニ、ドラッグストア等)の拡大に力を入れて飲食店のピークタイム以外の売上の獲得を目指しています。
セブン&i、イオンなど業界の大手を始め多くのプレイヤーが未参入ですが、MAX VALUEがUber eatsを開始したり、出前館でウェルシアが拡大したりと徐々に拡がりを見せています。
フードデリバリーの成長理由ⅱ:注文単価が下がる
海外では近所のユーザー同士で注文の相乗りサービス(ポストメイツパーティー等)が展開されていて配送料無料になるサービスがあります。
日本でも一つの注文に対して、配達員の通り道にあるお店は配達料無料になるサービスが出てきています。
この様なサービス展開はまだまだ続き、より使いやすいサービスになっていくと海外の事例から想像されます。
ギグワーカーの拡大のまとめ
新たな市場が導入される事や既存の市場が拡大する事で、ギグワーカーはより拡大し、飲食店の人手不足解消に今後もっと貢献してくれることでしょう。
外食産業の今後の見通し②:ロボットの成長
フードロボット市場は2025年までに年間平均32.7%で成長し31億ドル(約3,300億円)市場に迄成長が予想され、既にすかいらーくのお店ではネコ型ロボットが配膳、下膳を対応しています。
大手チェーン店以外でロボットが活用されて、飲食店経営にかかる人件費が圧縮されることは遠くない未来でしょう。
フードロボットの支援範囲は幅広く、配膳、下膳のフロント以外にも、調理、盛り付け、洗浄と飲食店のバックヤードにも登場しています。
更には、麺茹で、ビール注ぎなどのロボットが現在開発されています。
只、アメリカの技術はもっと進んでいて、ロボットがハンバーガーを作って店舗営業している為、日本よりロボット活用が現実味を帯びています。
更に、このお店のハンバーガーの価格は6ドルで、同じ地域の同レベルのハンバーガーの半額となっています。
人件費をカットする事で安価の提供が可能になっているのでしょう。
今の技術レベルでも大手のデリバリーピザ屋等キッチンが広いお店では、導入の可能性があるのではないでしょうか。
人件費も大きく削減できるし、ドミノピザで起きたハラペーニョを大量に載せるトラブルも無くなる事でしょう。
勿論、ロボット導入には、まだまだ課題が見られます。
ロボット導入の課題
- 厨房作業などのバック業務が古くて煩雑
- 厨房内のレイアウト再構築が必要
この課題改善にソニーが取り組んでいます。
ソニーは「AIを取り入れたレシピ考案アプリ」と「料理人のサポーターとしてのロボット」を開発していて、まずは人とロボットの協調を経ないとイノベーションは考えづらいと言う。
ロボット拡大のまとめ
ロボット調理は、効率面だけでなく衛生面やエンターテイメント性でも価値を見直されていて今後の外食産業の成長に欠かせない物となっていく事でしょう。
外食産業の課題②:低い労働生産性
飲食サービスは他産業と比較して従業員一人当たりの労働生産性が低いとされています。
全産業 | 飲食業 |
870万円/人 | 250万円/人 |
人手不足解消と同時にやらないといけない事は新たな付加価値を与えて利益を伸ばす事です。
現代は物が豊富にあり、物の値打ちが低下し続けていますが、感動や共感、信頼などの感情や体験にはお金が集まっています。
単に安く美味しい物を売っても価格競争に巻き込まれ、低い労働生産性から脱却できません。
堀江貴文さんは、モスバーガーの黒毛和牛バーガーが安すぎることが業界の価格を下げているという事に対して警鐘を鳴らしています。
「690円で販売することが業界のためになるのか? ダンピング(投げ売り)は黒毛和牛の価値を下げる行為である」
一方で、自身が携わる飲食店WAGYUMAFIAは、和牛を使ったカツサンドやラーメンを1万円の高単価で販売しています。
WAGYUMAFIAのコンセプトは「和牛を使って世界一になること」である為、インバウンドの外国人客をターゲットにし安売りをしていない結果です。
只、
WAGYUMAFIAは、華々しい現在とは裏腹に、オープン3か月迄全くお客さんが入らない状況でした。
この状況を料理や海外でのイベントの様子を投稿するインスタマーケティング一本で打開
外国人客が世界一のカツサンドとして徐々にシェアしてくれて4カ月目に世界中からセレブやYoutuberが訪れる様になりました。
この拡大は止まることなく、Twitterの創業者ジャック・ドーシーやデイビットベッカム等の著名人も訪れるほどの人気店になりました。
香港のレストランは客単価が7万円で日曜日定休の夜6時間のみ営業の25席の客席で月収が約500万円に達する、驚くべき生産性!
↓参考ページ↓
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1911/06/news006.html
外食産業の古い考え
- 昔ながらの家の料理の代わりを提供してくれるお店
- 安い物を油や化学調味料を使って美味しい感じに仕上げるチェーン店
外食産業の今後の見通し③:コネクテッドシェフの拡大
シェフは職人のイメージが強かったですが、
SNSを活用したり、エンターテイメントを展開したり、顧客とダイレクトに繋がったりするコネクテッドシェフが今後求められます。
アメリカのコネクテッドシェフの代表例:"タイラー・フロレンス"
経歴 | 現在 | SNS |
---|---|---|
料理芸術大学を卒業 | 複数レストラン経営(in N.Y.) | インスタグラム(約50万人) |
キッチンOS企業のアドバイザー |
ニューヨークで最も優れた若手シェフの一人です。(紹介記事)
日本人の代表格:"田村浩二氏"
自身の料理の知見を発信していて、雑誌などのインタビューにも対応しています。
生産性改善のポイント
美味しい物を追求し続ける時代は終わり情報発信を通じて感動を届ける事が成功の秘訣!!
外食ビジネスの未来まとめ
アンバンドル化(細分化)が進んでいく!!!
今まで飲食店は、食材、シェフ、レシピ、調理、場所、顧客が一つにバンドルして、成立するサービスでした。
- ウーバーイーツが場所の制限を取っ払い
- ゴーストキッチンでは、火を使う調理を取っ払い
- コネクテッドシェフがお店以外の場所で活躍する
この結果、外食ビジネスはどんどん感情労働へシフトしていくと考えられています。
肉体労働はロボットに、頭脳労働はAIに変わっていくが、感情労働だけは変えられない仕事になります。
顧客の気持ちや変化に合わせて、お店を作り上げる事が求められていきます。